第10章 ファッション・コミュニケーションでハッピーライフ!

●おしゃれをしない習慣から、する習慣へ
 
 ここで、あなたが今朝からいまこの時間までに何をしたか、思い出してみてください。起きて洗面を済ませ、朝ごはんを用意して食べ、着替えや化粧を済ませ、家を出て会社が学校に行く‥‥といったところでしょうか。では、これら一連の行動をする際に、あなたは何かを考えていたでしょうか? たとえば、目が覚めたとき「起きてすぐに歯を磨こうか? 顔を洗おうか? トイレに行こうか? 先に着替えようか? 食事の支度にしようか?」などなど。考えてから行動に移したでしょうか? おそらく答えは「ノー」でしょう。なぜか? それは毎日繰り返している習慣を今日もまた繰り返したはずだからです(今日がたまたま休日だった場合は、行動パターンが平日とは違うかもしれませんが)。
 私たちの多くは習慣化された行動によって日々を過ごしています。一度習慣化してしまえば、無意識のうちにそれをこなすことができます。車の運転にしてもしかり。毎日の食事のための料理にしてもしかり。パソコンの操作や仕事に使う機器類の操作にしても同様です。これらを毎日毎日、人に教えてもらったり、取扱説明書と首っ引きで操作したりしていては、非常に効率が悪い。つまり人が生きるうえで習慣化は、かなり重要なキーワードになっているわけです。
 ただし、習慣化にはメリットばかりではありません。脳は一度習慣化したことに関しては、それを変えることを嫌うという傾向にあるとされています。それはいつもと違う行動パターンを選択することは予測不能な結果を引き起こす可能性があるからで、生命維持の観点から危険を回避しようとするからです。私たちが新しいチャレンジをしようとしても重い腰が上がらなかったり、やり始めてもなかなか長続きしない理由のひとつです。
 ここで、話をファッションに戻します。「おしゃれに関心がない人」と他人に感じさせる人の特徴のひとつは「いつも同じファッションをしている」ではないでしょうか。同じスーツに同じネクタイ(違うスーツであっても同じスーツに見えるような着こなし)であったり、10年以上前から流行に関係なく同じようなスタイルをしている、であったり。こういうタイプの方は「おしゃれの枠組が狭い」のだと思います。それは、ファッションに関する知識の狭さでもあり、じぶんに対する認識の不足であり、他者とのコミュニケーション不足であったりと、すべてが狭い世界で生きていると言っても過言ではありません。おしゃれの枠組が狭い人は、その狭い枠組の範囲内でしか人とコミュニケーションできていないはずなので、「じぶんは人付き合いが苦手だ」「なかなか他人に理解されない」など孤独感を感じることが多いのではないでしょうか。こういう人は「おしゃれをしない」「服装に気を遣わない」「流行を知ろうとしない」「他人のアドバイスを聞かない」ことが習慣化されている可能性があります。
 脳科学研究では同じ行動を2〜4週間ぐらい繰り返し続けることで、その行動に移すための神経細胞間をつなぐシナプス(接合部)がつながるため、習慣化が図れると言われています。つまり、今までおしゃれをせずに過ごしてきた人でも約1カ月間、おしゃれを意識して服選びをすることを続ければそれは習慣となり、その後は意識せずとも服装に気を遣うようになるわけです。
 女性の場合、おしゃれな友人に手伝ってもらったり、お気に入りのショップを見つけてショップスタッフの人にアドバイスをしてもらってもいいでしょう。憧れの有名人を徹底的にマネするという方法(ペーシング)もあります。ただ、この場合、じぶんのイメージや体型、年齢が近い人を対象にすることをお勧めします。その方が結果を得られやすいからです。せっかくマネをしても結果が出なければ習慣化せずに挫折してますますファッションと遠ざかってしまいかねず、それでは意味がありません。
 男性には、私の友人である老舗テーラーのオーナーの言葉を贈ります。
 
“ショップは男性の武器庫である”
 
 ショップに行けばシーンに応じて必要な武器(服や小物)は、なんでも揃うというわけです。ショップのスタッフに「このシーンにはどんなスタイルで臨めばいいか」を相談すれば必要な物は揃えてくれる。見た目の完璧さはもちろん、プロの助言に基づいているという精神的なサポートが得られたことで万全を期して闘い(ビジネスやデート)に赴けます。補足すると、このフレーズを言った彼はショップには女性と一緒には行かないそうです。あくまで「男性の武器庫」であり、準備をしている姿を見せることで手の内を知られてしまうという危険は冒せないのですね。
 また、男性の中には「おしゃれかどうかを気にするなんて、かっこ悪い」と思っている人もいるかもしれません。確かにじぶんのおしゃれを自慢したり、おしゃれかどうか・ハイブランドを身につけているかどうかを価値基準にするのはかっこ悪い。ここでいうおしゃれとは他人を不快にさせない、もしくは他人とのコミュニケーションをスムーズにするためのツールなのです。そういう意味でもショップスタッフという第三者の意見を参考にした服選びはじぶんを俯瞰から見ることにもなるため、勘違いをしたかっこ悪いおしゃれを避けることができます。ショップスタッフに対し、ざっくばらんに「おしゃれがよくわからないのでコーディネートしてほしい」と言うことは、他者との間の壁をひとつ破ることにもつながります。これら一連の行動によってファッションの枠組が広がるだけでなくじぶんの新しい一面を発見することができる。気がつけばコミュニケーションの枠組も広がっているはずです。

 

 

 

 

 英語が上達するコツは、ひたすら英語に慣れることだと言われます。家にいるときは英語のニュース放送をひたすら流して無意識に耳に入るようにしたり、膨大な英語の文献を読むなどを続けることで、ある日英語を理解できるようになっている‥‥という体験談をよく耳にします。ファッション・センスの磨き方も同じ。無意識におしゃれを意識した服選びができるようになるまで、しばらく頑張ってみてください。きっと世界の広がりを感じ、高揚感を得られるはずです。