ミニマリズムと日本文化

●ミニマリズムと日本文化

先ほどから解説している「ミニマルライフ」の概念は「ミニマリズム(minimalism)」からきています。「ミニマリズム」とは「完成度を追求するために装飾的趣向を凝らすのではなく、それらを必要最低限まで省略する表現スタイル」だそうです(出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説より抜粋)。また、「1960年代に音楽・美術の分野で生まれ、ファッションにも導入された」ともあります。美術においては「ミニマル・アート」、音楽においては「ミニマル・ミュージック」、建築においては「ミニマル・アーキテクチャ」、服飾は「ミニマル・ファション」と称されます。
ミニマリズムのそもそもの起こりは1917年にオランダではじまった芸術におけるムーブメントだったとも言われています。オランダ語で「デ・ステイル」と呼ばれ、意味は「ザ・スタイル(様式)」。必要最低限の色と形によってのみ描かれる抽象芸術であったり、建築デザインを追求するという考えた方でした。本格的な抽象絵画を描いた最初期の画家とされるモンドリアンが参加して創刊した芸術雑誌「デ・ステイル」。この雑誌が唱えた芸術理論「新造形主義」によって牽引された芸術的ムーブメントにより、ミニマリズムが浸透していったのです。後にイブ・サンローランがモンドリアンの代表作である「赤、黄、青と黒のコンポジション」をそのままモチーフにしたデザインを1965年のコレクションで発表しています。その名も「モンドリアン・ルック」。目にしたことがある人も多いのはないでしょうか。
パソコンのアップル社のデザイン・コンセプトも基本はミニマリズム。「Keep it Simpe」が一環したフィロソフィーだそうです。アップルのi-phoneのデザインは、まさにミニマルデザインの集大成ともいえます。本体の操作ボタンの少なさ、基本操作のシンプルさはアップル社製品の大きな特徴でもあります。
アップル社の創始者であるスティーブ・ジョブスも有名なミニマリストのひとり。彼は日本文化の「シンプルさ」をとても好んでいて、禅やわびさびの考えた方がアップル社のミニマムデザインの根底にあったようです。ジョブスの公式伝記本「スティーブ・ジョブス」には、千野弘文氏に禅を学び、出家の相談までしていたことが記されています。この本には次のような記述もあります。

“集中力もシンプルさに対する愛も、「禅によるものだ」とジョブスは言う。禅を通じてジョブスは直感力を研ぎすまし、注意をそらす存在や不要なものを意識から追い出す方法を学び、ミニマリズムに基づく美的感覚を身につけたのだ。”
(出典:「スティーブ・ジョブス」下巻)

たしかに、日本文化にはミニマリズム的エッセンスがふんだんにあります。わびさび(侘び寂び)の「侘び」とは本来、動詞の「侘ぶ(わぶ)」の名詞形で、本来は「不足した状態・簡素であること」などを表した言葉でしたが、中世ごろに「閑寂な中に美を見いだす」という新しい美意識となり、室町時代の茶の湯文化とむすびついてさらに発展し、広く認知されていったようです。
「寂び」は動詞「寂ぶ(さぶ)」の名詞形で「時間とともに劣化した状態」の意味から変じて、古びて味わいがある、枯れた様子に感じられる渋さ・趣などを表すようになったようです。たとえば江戸時代の町民の生活において、長屋の一間(プラス台所の土間)に家族数人で暮らし、机といえばちゃぶ台1つ。食事も勉強も団欒も寝るのも、同じ空間で過ごしていた時代、たくさんの物を所有することに人々は関心を持っていなかったと思われます。というのも当時は「損料屋」と言う、いわばレンタルショップがあり、布団や衣類、鍋やかまなどなんでもレンタルできたとか。とうぜん、住まいも賃貸であったことから引越しの際の荷物は着物とわずかの小物ぐらい。そして、着物や履物、桶などの生活道具は壊れれば修理をしてまた使うという、徹底したミニマルライフが江戸の町にはあったのです。

日本の暮らしの根底には先人から受け継いだミニマリズムがあり、それが日本人の美意識をも育んているとしたら。私たちがたどり着く先がミニマルライフだとしても、自然な流れであり、原点回帰と言えるのではないでしょうか。